荒川の水門下校する生徒の姿がほとんど見えなくなった頃、小さな水門のそばに座る人影が見えた。自然と弾む足取りを抑え、護岸の中央に設けられた一人しか通れない小道を静かに降りた。彼女が身にまとう自由で清らかで静謐な空気を乱さないように。私は彼女に声をかけ、その声が優雅な水音のようであることを密かに祈った。「明日姉」西野明日風先輩は手の本から顔を上げた。奏でられた音色は、次の瞬間に吹き抜ける春風のようだった。「今日は君に会える気がしてた」髪は顎のラインに沿って軽く揺れ、いたずらっぽい微笑みに動かされるかのように、左目の泣きぼくろが私に手を振った。肉感的とも細身ともいえない体つき、きっちり締めたネクタイ、長すぎず短すぎないスカート。中性的で中立的な美しさに、私は心を打たれた。——『千歳くんはラムネ瓶のなか』01
出典:Anitabi問題を報告